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29.介護現場の記録の種類

介護サービスと記録

最近、東日本大震災関連の会合の議事録が作成されていないものがあったことが問題にされましたが、東日本大震災関連の会合に限らず、話し合いの過程や、何かが決められた過程と結果の記録が残されていないと、どういった情報が、どのように分析されたのかが、皆が知るところとならない、問題の原因究明や検証もできなくなってしまうという問題があります。また、介護や看護は人の命にかかわる多くの記録が存在し、記録の正確性と正当性が問われます。そこで、改めて、介護サービスの中で残される記録にはどのような機能があり、その機能を果たすための記録の残し方、使い方を考えてみたいと思います。

介護現場の記録の種類

介護サービスの現場では、おびただしい数と量の記録が存在しています。記録は「紙」と「電子データ」で持たれていますが、多くは2つの併用のかたちをとっています。

最も代表的で基本となる記録は、利用者の日々の心身や生活の様子とケアの内容を記した「ケース記録」と呼ばれているものです。「ケース記録」は利用者ごとに時系列に残されますが、これとは別に「水分摂取管理表」とか「排泄状況表」など、ケア等の介護サービスの内容に的を絞って残していく記録類があります。利用者に対する直接の身体、生活介護の記録ではない「浴室設備点検記録」や「ケアカンファランス議事録」もあります。更には介護サービスを支え、マネジメントするためのプロセスである職員教育、事故再発防止、委託業務管理等に関する記録も多々存在しています。

記録の機能を再認識して、記録を正しく残し、使っていくためには記録の種類による機能の違いをつかんでおく必要があります。それによって記録様式や項目設定が異なり、データ的な記録が中心になるか記述式の記録が適するのか等に違いが出てきます。例えば、「車いす点検記録」では、いつに、誰が、決められた監視(点検)項目を点検したのかという事実と、異常があった場合にとった処置が、項目的に記録されていれば、記録としての機能は果たされます。これに対し、「ケアカンファランス議事録」では、誰が(どのような職種・立場の人)どのような意見や評価をし、それに対しどのような判断や今後のとるべき方向が会議として導かれたのかが記録されていなければなりません。「ケース記録」では、例えば“失禁”という事実に対し、“ズボンやシーツまで濡れていた”という観察された客観的状況と、“清拭し、衣類を着替えた”という、とった処置。そしてその結果、“さっぱりしたと言い、入眠した”という反応が分かるような記載があれば「ケース記録」としての機能が果たされます。記録は何もかにもが残されていればよいのではなく、重複を避け、効率的に、のちに有効に活用される形で残されるための工夫が必要です。

下表は、介護現場の記録の種類を、『個々の利用者の心身の状態とケアの内容』『介護サービスごとの記録』『業務の実行の記録』『マネジメントの記録』に大別して例示したものです。

記録の種類 記録名
個々の利用者の心身の状態とケアの記録
  • ケース記録
  • 看護記録
  • 相談記録
介護サービスごとの記録
  • 排泄状況表
  • 水分摂取表
  • 入浴記録表
  • リハビリ記録
  • 余暇活動記録
  • 検食簿
  • 体位交換表
  • 理美容チェック表
業務の実行の記録
  • 浴室点検表
  • 居室環境チェック表
  • 温湿度表
  • 業務日誌
  • 会議事録
  • 車いす点検記録
マネジメントの記録
  • 教育訓練記録
  • 事故報告書
  • 苦情対応報告書

30.介護サービスの特徴と記録の機能

記録の内容によって、多少の軽重の差はありますが、いずれの記録にも次の3つの機能があります。

  1. 次工程の適切で安全な判断や行為につなげる機能
  2. 実施したことのトレースと証拠としての機能
  3. 情報を共有するための機能

記録を残すことが負担になっていたり、義務感や無意識的に記録をつけていたり、最悪の場合には、やっていないことを先に書く「先付け記載」や、実施の都度ではなく、あとからの「まとめ書き」をしたりするのは、多忙だけが理由ではなく、こうした記録の重要な機能に対する認識が足りないことにも原因があります。

そこで、介護サービスの特徴と、この3つの機能の結び付けを改めて考えてみることにします。

記録の機能
記録の機能

1.次工程の適切で安全な判断や行為につなげる機能

介護サービスは、

  1. サービスの結果が、かたちに残らない
  2. サービスの結果はサービスの提供と同時に生じる
  3. サービスの受け手がサービスの良し悪しを評価する発信力が弱い

といった特徴があります。また、事故の発生や苦情に結び付くケースは別として、サービス内容が十分でない場合にも、上記1.~3.の理由で、サービス利用の減少や事業運営の悪化という影響が直接現れにくいということもあります。そこで、介護事業には法律に基づく人員配置や設備基準、運営の基準が細部にわたり定められており、これに基づく実施がサービスの質の維持・向上の担保となっています。勿論、法律が求めていることを理由にサービスが行われているのではなく、福祉の理念や介護サービスの在り方に対する高邁な精神のもとに介護サービスが提供されているのは言うまでもありません。あくまでも、そうした理念や良質なサービスの実現に必要なものとして、最小限度にサービスの質を担保するものとして法律が定められているのだと考えなければなりません。

では、法令や基準の中で記録を残すことをどのように定めているかを見てみますと、介護老人福祉施設に対しては、介護保険法に基づく厚生省令第39号「指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準」の第三十八条に以下のように記載されています。

(記録の整備)
第三十七条
指定介護老人福祉施設は、従業者、設備及び会計に関する諸記録を整備しておかなければならない。
2
指定介護老人福祉施設は、入所者に対する指定介護福祉施設サービスの提供に関する諸記録を整備し、その完結の日から二年間保存しなければならない。

また、厚生省令第46号「特別養護老人ホームの設備及び運営に関する基準」にも同様に、

(記録の整備)
第九条
特別養護老人ホームは、設備、職員及び会計に関する諸記録を整備しておかなければならない。
2
特別養護老人ホームは、入所者の処遇の状況に関する次の各号に掲げる記録を整備し、その完結の日から2年間保存しなければならない。
一 入所者の処遇に関する計画
二 行った具体的な処遇の内容等の記録
三 第十五条第五項に規定する身体的拘束等の態様及び時間、その際の入所者の心身の状況並びに緊急やむを得ない理由の記録
四 第二十九条第二項に規定する苦情の内容等の記録
五 第三十一条第三項に規定する事故の状況及び事故に際して採った処置についての記録

と、定められています。

これを受けて、例えば東京都の「指定介護老人福祉施設特別養護老人ホーム(老人福祉施設)指導検査基準」には、

項目
記録の整備等
観点
入所(入居)者に対するサービスの提供に関する記録の整備及び保存がなされているか
記録の種類
  • 施設サービス計画
  • 介護サービス記録、排せつ記録、体位交換表、入浴記録表、理美容チェック表等があげられる
  • 入所(入居)者名簿
  • 入所(入居)者台帳(ケース記録等)
  • 介護・看護日誌
  • 食事(献立表、食事箋等)
  • 健康管理(看護記録、健康診断)
  • 預り金等の管理に関する書類
  • 身体的拘束等の記録
留意点
  • 定期的な記録
  • 責任者の定期的な確認と必要に応じた助言、指導
  • プライバシーに配慮した適切な保管
  • 施設サービス計画等は、個人情報の保護に関する法律等に基づき適切に取扱うこと。

のように、全般的な記録の整備状況を検査するとともに、法令の趣旨からして実施の遵守とともに、それを裏付ける記録として、下表のように、個々にも適切に記録が残されていることの確認がなされています。特に介護報酬の加算の対象となっているものには相当の実施の記録が求められています。

表1
  1. 建物、設備の点検
  2. 委員会記録
  3. 避難訓練結果の記録
  4. 苦情の内容等の記録
  5. 介護事故等の発生ごとにその状況、背景等の記録
  6. 事故発生防止の研修実施の記録
  7. 事故の状況及び事故に際して採った措置の記録
  8. 従業者及び設備並びに会計に関する諸記録
  9. 開催日時、出席者、議題、議事内容等を記載した会議録
  10. 退所前後訪問相談援助加算の相談援助内容の記録
  11. 栄養マネジメント加算における入所者ごとの栄養状態の定期的記録
  12. 在宅復帰支援機能加算の当該退所者の在宅における生活が一月以上継続する見込みの確認記録
  13. サービス提供体制強化加算における配置割合の月ごとの記録
  14. 介護サービス計画のモニタリング結果の記録および定期的な入所(入居)者への面接結果の記録
  15. 余暇活動の実施記録
  16. 身体拘束を行う場合の、緊急止むを得ない理由の記録。経過観察等の記録。委員会等の実施記録
  17. 退所(退居)者金品等の処理の記録
  18. 公正証書等の作成経過の記録
  19. 検食についての記録
  20. 感染症又は食中毒の予防及びまん延防止の職員研修の実施記録

これらの記録の多くは、機能1の、“次工程の適切で安全な判断や行為につなげる”意味の強い記録類です。すなわち、サービスの質の維持・向上のために、「計画(Plan)」→「実施(Do)」→「監視(Check)」→「見直し(Action)」のPDCAサイクルを回すために、欠かせない「監視(Check)」の記録ということが言えます。介護保険制度の中では、介護サービス計画書を作成し、計画に基づくサービスを実施し、その状況を把握し(モニタリングし)、再評価するというサイクルを、利用者の心身に関するすべての側面から行うことを求めています。また、10.~13.のように、介護報酬の加算が行われる場合には、これらの記録は加算の要件となっています。

介護サービスを利用する側も、こうした法律等の遵守状況がサービスの評価の目安にもなっています。自治体が行っている情報公表制度では介護事業者の申告した基本情報項目と調査情報項目をインターネット上で公表していますが、調査事項の確認は“しくみがあるか”、“記録があるか”に答えるかたちになっています。サービスの質は最終的には実施のレベル如何ですが、実施のレベルにつなげていくためには実施するための仕組みの存在(手順、計画、ルール)と実施の確認がとれる記録の存在ということになります。介護老人福祉施設の調査事項約200項目中、約半数は「○○の記録がある」、残り半数の半数は「○○を示した文書またはマニュアルがある」となっています。

2.実施したことのトレースと証拠としての機能

記録を残すことの2つ目の機能は、実施したことのトレースと証拠としての機能です。

介護保険法に基づく厚生省令第39号「指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準」や厚生省令第46号の「特別養護老人ホームの設備及び運営に関する基準」では、前述のように記録の整備を明記して求めているものの他は、特に記録を残すことは求めておらず、例えば「指定介護老人福祉施設は、一週間に二回以上、適切な方法により、入所者を入浴させ、又は清しきしなければならない。」といったように、実施すべき事項が書かれているものが多くあります。これらを実施したことの確かさを組織の内外に対して示すことが必要な場合があります。情報開示請求があった場合、事故や苦情等の原因や経緯を示さなければならない場合、監視・監督する機関に対して提示しなければならない場合等です。飲用の水が原因の食中毒が発生した場合に、“水質検査を実施しているか”と問われ、“実施しています”ということでは回答にならず、実施の記録を示す必要があります。不幸にして起床時に死亡が発見された場合、夜間の巡回時の状況がトレースでき、証明される記録が残されていなければ検死の必要な情報を示すことができません。「夜間巡回表」「夜勤日誌」または「ケース記録」等で、巡回時間、巡回者、巡回時の当該利用者の状況等が残されている必要があります。これはまさしく機能Ⅱの、“実施したことのトレースと証拠”としての機能を持つ記録です。この機能を主とする記録類も多く存在します。

例えば、表1の、1.建物、設備の点検、3.避難訓練結果の記録、6.事故発生防止の研修実施の記録、15.余暇活動の実施記録、19.検食についての記録、20.感染症又は食中毒の予防及びまん延防止の職員研修の実施記録等が該当します。

3.情報を共有するための機能

個人的な日記などを除けば、ほとんどの記録は記録者を含む複数の者が記録としての情報を、知るため、活用するためという目的を持っています。機能1の代表的記録である介護サービス計画に基づく「サービスの実施記録」や個々の利用者の心身の時々刻々の様子を記した「ケース記録」も当該利用者について複数の者が知り、活用する目的を持っています。記録の情報共有の機能は介護現場では無意識的に果たされていますが、情報共有を意識して作られている記録ということで挙げれば、「業務日誌」「会議議事録」の類があります。そのため、これらの記録は必要な関係者が閲覧したことを確認するためにサインや押印をしたり、パソコン上でも閲覧確認を取るようにしています。また、記録を情報共有しやすい状態におくことも必要です。

31.機能別に求められる記録の留意点

Ⅰ.次工程の適切で安全な判断や行為につなげる機能について

次工程につなげるという点で大切なことは、何のためにつけている記録であるかということを意識して書くことです。次工程が安全に適切に行われることが目的ですので、誤った状況把握や判断につながらないよう、正確に、事実と記録者の判断とが区別されて記載されている必要があります。例えば、介護サービス計画に基づくサービスの実施状況とその結果現れた変化、それに対する評価を明確に区分して記載されていなければなりません。「下肢の機能強化」が介護サービスの計画であり課題であるのに、実施していることや評価の記載が「グループワークへの積極的参加」が中心に書かれていたのでは、この記録を元に次工程である介護サービス計画の変更や更新が適切に行われません。もう1つ実際にあった例を挙げますと、『行事の結果記録』として、実施済みの敬老会の記録が残されていました。この記録の主たる目的は、次回の敬老会が安全・適切に計画実施されることにあります。しかし、その記録の中に、“反省点:来賓用の席(椅子)が足りず、その場で急遽椅子を追加して間に合わせたが、お客様に迷惑をかけてしまった”とだけ書かれていました。これは事実と感想の記録です。何脚ほど不足したのか、それはどのような見込み違い(事前の情報把握間違い)があったのかの記録を残して初めて次工程の適切で安全な判断や行為につなげる記録の機能を果たすことになります。PDCAサイクルを意識した記録の書き方、書式が大切です。また、記録が次工程に活用されるためには、記述式の情報の他、データ的情報が必要な場合があります。量的分析や傾向把握をしたい場合、予めそれを想定した記録の残し方がされていなければなりません。数値化や記号化をはかり、様式設計を工夫し、記入の統一を図ることが必要です。

Ⅱ.実施したことのトレースと証拠としての機能について

この機能のための留意点は、事実関係の確かさとトレーサビリティです。後のトラブルや責任所在に関わる性質をもつ記録ですので、一にも二にも事実に基づく正確な内容が読み取れることです。設備や器具の点検記録等も該当しますが、これらは項目が設定されていて、レ点方式でチェックするようなもの、記号で記入するものも多く、記入は簡便に出来る一方、具体的状況が確認できないケースが間々あります。欄からはみ出ていたり、欄をまたがって記入されているケース、意味不明の空欄、判読不能な記入は事実の確かさ、トレーサビリティを損ないます。勿論、改ざんはあってはならないし、安易な訂正も許されません。個人情報保護法に関する医療・介護事業者向けガイドラインの、第二十六条(訂正等)に関して、『・保有個人データの訂正等にあたっては、訂正した者、内容、日時等が分かるように行われなければならない。』『・保有個人データの字句などを不当に変える改ざんは、行ってはならない。』ことが記載されています。もう一つ、この機能での留意点は情報の不足のために事実関係が掴めなくなったり、トレースできなくならないように、記録様式や項目設定段階で計画しておかなければならないという点です。例えば、「避難訓練実施記録」や法令で定められた「職員研修実施記録」に参加人数は記録しているが、誰が参加したかは記録されていないケースです。避難訓練や研修の実施の有無だけが目的ではなく、そこに該当する者が参加したのかどうか、不参加者にもフォローする機会を持てるようにしているかも大切な目的です。後日、これらに関する問題が発生した時に、このことが確認できないのは、実施したことのトレースと証拠としての機能を果たしているとは言えません。勿論、避難訓練などは該当者全員の参加を記そうとすると、記録の負担が大きくなり、記入欄にも難しさが出てきますので、『○○を除く、当日出勤者全員、在館利用者全員』と記入することで、当日の出勤簿・利用者名簿と照らし合わせることでトレースする工夫も考えられます。

Ⅲ.情報を共有するための機能について

情報が共有化されるためには、必要な“時”に、必要な“人”に、必要な“内容”が共有されなくてはなりません。“時”について言えば、リアルタイムな情報が共有されるのが理想ですが、紙媒体でも電子データでも一定の記入や入力のタイミングがあるため、決められたタイミングで記録することと、記録の日時が確認できる記入と様式が必要です。“人”については、当該記録がどの範囲の人が知っていなければならない情報なのかを明確にし、その範囲の人が必ず使うというルールと励行が求められます。“内容”の共有で大切なのは、一つの事実や状況が同じように読み取れる記録が残されていることです。以上の3つのどれが欠けていても、Ⅰの「次工程の適切で安全な判断や行為につなげる機能」に不十分なばかりか、苦情や事故の原因ともなります。仕事の無駄にもつながります。情報を共有するためには、読み手に分かりやすく、読みやすく記録を残すことも大切です。

もう一つ、情報の共有に際しての留意点として個人情報保護上の問題があります。サービスの質の点からは、情報に関わる人の範囲や内容の程度が十分である方が良いのですが、個人情報保護上のリスクは増大します。特に外部委託やボランティア、実習等でサービスを行う場合に使用する情報(記録)は、共有する情報の範囲と管理方法を別途定める必要があります。

32.文書と記録

文章であるか、図表であるかを問わず、書き記されたものを“文書”とすれば、 活動をするにあたって用意される規定、計画書、手順書の類 と、 活動の結果を記すもの とに分け、後者が“記録”と言えます。この両者を含めて“文書”、そして“記録は文書の一種”となります。しかし実際に存在する文書は必ずしも厳密に区分して作成されているわけではなく、計画書に記録が書き込まれたり、記録の用紙に手順や記入要領が載っているものは多々あります。この場合に注意しなくていけないのは、“記録”は活動の証拠であることから、保管管理が重視され、一方、活動をするにあたって用意される規定、計画書、手順書などのいわゆる“文書”は、有効な文書であるかどうかを、発行前の承認と最新のものであること、およびレビューを行うことで確実にすることが求められます。計画書に結果の記録をしている場合、計画が更新されても記録の保管期間以前に破棄することがないように注意が必要です。また、記録用紙に記載されている手順や判断基準などが変更された場合、変更時点以降は変更された用紙の使用の徹底を図らなければなりません。夏季の室温の適温範囲を22℃~27℃から24℃~28℃に変更したことが「室温チェック表」の記入要領欄に変更がされておらず、変更前の基準で合否判定と処置を行っていたといったケースは間々あることです。こうした基本的なルールが崩れますと前述の記録の機能Ⅰ、Ⅱ、Ⅲが損なわれます。

33.読みやすい、使いやすい記録

下表は、パターンの異なる介護サービスの代表的な記録を例に、読みやすく、読んだ人が使いやすい記録作成の注意点をまとめたものです。

代表的記録 記録作成の注意点
  • ケース記録
  • 看護記録
  • 相談記録
何の項目について記載するのかを、まず表す
起こっていることや状況、データ等を書き並べるのではなく、たとえば、「発熱について」「排せつについて」あるいは「介護サービス計画の課題番号○○について」のように、伝えたいこと、兆候、症状、行動などのテーマが読み手の目に入るように書く(用紙を設計する)
上記のテーマに関する情報を書く
起こっていることの裏付けとなる理由や客観的事実、データを書く。データなど、専門的記述をする場合は、記載ルールに基づいて記載する。
職員等がとった行動を書く
記載者の実施したことなのか、他の職員がしたことなのか、主語を明確にする。介護サービス計画に基づいて行ったことは、課題番号とのつながりがわかるように書く
とった行動や処置に対する利用者の反応、結果を書く
介護サービス計画との連動、行動や処置をした主語を明確にする点は上記に同じ。
  • 事故報告書
  • 苦情報告書
  • 議事録
主観的なこと、推測的なこと、判断したことと事実との区別がつかない記載をしない。
5W1Hを意識して書く(用紙を設計する)
図を添える
句点(。)を使って、簡潔に書く
結論を先に書き、句点(。)で結び、その後に結論の説明を書く
“…が、”で繋がず、句点(。)で切って、文を分ける
意見と事実を句点(。)で分けて書く
  • 設備点検記録
  • 各種チェック表
記入欄、記入方法を守って正しく記入する
はみ出したり、欄と欄とにまたがっていてどこの欄の記入なのかが不明瞭な書き方をしない。
自己流の略号や書き方をしない
空欄を作らない
記入する該当事項がないための空欄には斜線を引くなどして、記入漏れの空欄との区別を明確にする

34.マネジメントシステムと記録

介護サービスの質の維持・向上をはかり、介護事故等のリスクをマネジメントし、効率的に業務を遂行していくためのマネジメントシステムを構築し、運用する中で、どのような「記録」が必要で、活用していかなければならないかを見てみますと、次の様な記録が該当します。

  1. 介護サービス計画の作成に際し、利用者や家族のニーズをレビューし、レビューの結果とレビューによってとった処置の記録。(例えば、食堂で食事を摂ること拒否した場合には、居室で食事をするというニーズに応えることにしたことを介護サービス計画の内容としたことの記録)
  2. 介護サービス計画作成においてインプットした内容、介護サービス計画にインプット内容が反映しているかどうかの検証の結果、介護サービス計画作成の妥当性確認を行った結果、介護サービス計画作成における変更内容 等の記録
  3. 介護サービスに必要な物品購入先や業務の委託先の評価の記録
  4. トレースができる状態が必要な場合のトレースに必要な記録(例えば、食材の検収時の品温の記録…食材別の検収日時と品温)
  5. 利用者の所有物を紛失もしくは損傷した場合又は使用に適さないとわかった場合の記録
  6. 測定値の正当性が保証されなければならない測定機器の校正及び検証の結果の記録
  7. 内部監査の結果の記録
  8. 介護サービスに求められる適切な状態でないもの(不適合)を検出し、除去等の適切な処置をとる場合の記録
  9. 不適合の再発防止のためにとった処置の結果の記録
  10. 起こりうる不適合の発生を予防するためにとった処置の記録

これ以外にも、職員の教育、訓練の記録などマネジメントシステムの効果的運用の証拠を示すために記録を作成し、管理することが必要です。

35.介護記録ソフトの活用

ここまで、介護サービスで必要とされる記録について、種類と数の多さ、それぞれが果たす機能の重要さを述べてきました。種類と数が多く、果たす機能が重要なだけに、これに関わる負担の大きさが問題になります。この問題に対しては、一般に介護記録ソフトと言われるコンピュータ利用が大きな力を発揮します。単に、負担の軽減ということではなく、記録を活かした介護サービスの質の向上やリスクマネジメント、業務の効率化、職員教育等、介護のマネジメントを前向きに進めていくことにこそ介護記録ソフトの活用の意味があります。また、介護保険制度の改定に対しても紙ベースの記録管理とは比較にならない確実さと速さで対応ができることも大きな利点です。介護記録ソフトは利用者の心身に関わる日々の情報や提供した介護サービスとその結果等の記録を次工程の有用な情報として活用することや、関係する者の情報共有を容易にします。また、業務スケジュールの管理や議事録、掲示板、事故・苦情報告等にも利便性を発揮します。

多くの介護施設や在宅介護サービスにおいて介護記録ソフトは活用されつつありますが、活用の程度には差があります。介護報酬や利用料請求を主目的にしているところ、ケース記録や介護サービス計画作成を中心に導入しているところ、相談業務、待機者管理、生活支援全般、栄養ケアマネジメントも含めほぼトータルに活用しているところなど様々です。

一部導入のケースでは、紙媒体との併用のため、二重の記録管理となっています。

介護記録ソフトの導入拡大は今後大いに予想され、期待されるところです。