13.教育問題の洗い出し
介護職員の教育・人事考課
介護現場の教育問題をより良い方向にもっていくために、その具体的方策を考えることをテーマにして、教育問題をリスクに置き換えて、リスクマネジメント的、PDCA的に考えてみたいと思います。
教育問題の洗い出し
解決策をP(PLAN)とすれば、PDCAサイクルのC(CHECK)である現状の評価をまずしなければなりません。
- 交代制勤務であることや訪問介護職員にとって、教育研修の時間が設定しにくい。
- 人の入れ替わりが多く、教育が追いつかない。教育を受けた人がすぐ辞める。
- 中途採用者が教育を受けてから仕事に就くという時間的ゆとりがない。
- 中途採用者が教育を受ける機会が定まっていない。
- 職種が多く、経験年数や入職後年数で並んだ人的構成になっていないなどの理由から教育ターゲットを絞った効率的な教育が出来ない。
- 本来、専門的知識や技術が必要な業務にも関わらず、生活支援や身体介護、アクティビティ活動の業務などではひと通りのことが出来ているように見えるため、教育を受けていない結果が直接的に現れない。
- どの段階で、どのような知識、技術、能力を必要とするかの体系的な拠りどころがない。
- 教育の結果が客観的に評価され、人事考課や処遇等の人事制度に結びつくものになっていない
- 教育の必要性は十分感じているが、業務の多忙さや人員不足のため、教育をする職員、教育を受ける職員に時間的余裕がない。
- 人数的にも、能力的にも十分な教える側の人がいない。
- 作業マニュアル、ビデオなどの教育ツールが整備されていない。
- 実技指導、ロールプレイングなどの指導技法が十分に使われていない。
- チューター制度、シスター制度、OJT、SDSなどの指導体制の導入が遅れている。
などが挙げられます。
14.教育問題の評価
「13.教育問題の洗い出し」で紹介した1~13の問題は介護事業に携わる職員教育の問題に限ったものではありません。この中で、強いて介護事業者に特徴的なものと言えば、
- 交代制勤務であることや訪問介護職員にとって、教育研修の時間が設定しにくい。
- 職種が多く、経験年数や入職後年数で並んだ人的構成になっていないなどの理由から教育ターゲットを絞った効率的な教育が出来ない。
- 本来、専門的知識や技術が必要な業務にも関わらず、生活支援や身体介護、アクティビティ活動の業務などではひと通りのことが出来ているように見えるため、教育を受けていない結果が直接的に現れない。
を問題を挙げることが出来ます。また、それ以外の問題は、解決に持っていくために現在は整っていない問題ということが来ます。そこで、洗い出された問題から解決策へのステップのために問題をもう少し詳しく見て評価してみたいと思います。
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交代制勤務であることや訪問介護職員にとって、教育研修の時間が設定しにくい
入所型の介護事業においては24時間の介護が必要なため、職員が日勤、早番、遅番、夜勤等の名称で呼ばれる時間の区分の中で仕事をしなければならない環境にあり、さらに一人の職員も週の中で日勤の日、夜勤の日、遅番の日などの組み合わせになるため、数人の職員を一度に教育する場や時間を設けることは難しい状況にあります。教育を受けるために勤務表で組まれたローテーションとは別に出勤をしなければならず、職員にとっては計画的な休養や時間の使い方にも支障が出てきます。
これは他の業種でも同様に抱えている問題である「教育の必要性は十分感じているが、業務の多忙さや人員不足のため、教育をする職員、教育を受ける職員に時間的余裕がない。」の事情を更に困難にしています。フルタイムでない勤務形態の多い職場でも同様です。
また、勤務報告や情報の受け取りのために事業所を訪れる以外にはあまり事業所にいる時間がもてない訪問介護職員も同じ問題を抱えています。
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人の入れ替わりが多く、教育が追いつかない。教育を受けた人がすぐ辞める。
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中途採用者が教育を受けてから仕事に就くという時間的ゆとりがない。
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中途採用者が教育を受ける機会が定まっていない。
介護従事者の離職率は5年ほど前までは全産業比較においても高く、20%前後であったが、近年、やや低減傾向にあり、厚生労働省の「平成22年雇用動向調査結果の概要」によれば、離職率は全産業平均14.5%に対し、医療・福祉という産業分類における離職率は15%にとどまっています。しかしながら、産業分類別ではトップ3に入る離職率や入職率を示していて人の入れ替わりの多い業種であることには変わりがありません。これはサービスの安定的、均質的提供のために必要な「導入・育成教育」が求められる点で大きな問題と言えます。
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職種が多く、経験年数や入職後年数で並んだ人的構成になっていないなどの理由から教育ターゲットを絞った効率的な教育が出来ない。
介護事業に携わる職員の職種は、他の業種に比較し多岐にわたっています。
教育内容に差異があるかどうかの観点で分類しただけでも次の様な職種が挙げられます。
- 介護施設介護職
- 訪問介護介護職
- 機能訓練指導員
- 栄養士
- 調理員
- 看護職
- 訪問看護職
- 保健師
- 運転手
- 事務職
- 生活相談員
- 介護支援専門員(ケアマネージャー)
これらの殆どすべてが資格職ですが、資格を有していることイコール職場における業務上の力量があることや維持、向上できていることにはつながりません。この多様なターゲットに対して適切な教育機会を設けることは容易ではありません。
さらに難しいのは、職場内で教育をする、あるいは教育を受けるといった人的構成がないに等しい職種も多いということです。
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本来、専門的知識や技術が必要な業務にも関わらず、生活支援や身体介護、アクティビティ活動の業務などではひと通りのことが出来ているように見えるため、教育を受けていない結果が直接的に現れない。
介護の業務は形のないサービス業務であり、サービスの提供と結果が同時であること、また、日常生活的な面が多いため教育を受けているか否かによる差異を感じにくい点があります。そのため業務の結果の善し悪しを担保するには、一つには十分に教育・訓練を受けた人によって行われること、二つには一定の決められた手順に従って行われていること、さらにその方法や結果が責任ある者によって確認されていることが必要です。さもないと内容や程度にバラツキのある業務が行われていることがまかり通ってしまいます。また、生活支援や身体介護の業務は、ある程度の教育を受ければさほどの期間をかけずとも携われそうに思われがちですが、食事介助一つにしても利用者個々の身体状況や食事場面の状況等によって、さまざまな注意点や介助方法のポイントがあり、知っている、いない、出来る、出来ないによってリスク面やサービスの質の面で大きな差があることは介護事業に関わらない者にも容易に想像がつきます。まさに教育訓練と経験を経た介護のプロが求められるところです。
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どの段階で、どのような知識、技術、能力を必要とするかの体系的な拠りどころがない。
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教育の結果が客観的に評価され、人事考課や処遇等の人事制度に結びつくものになっていない。
この問題は介護事業に限った問題ではありません。むしろ個々の組織によって大きな開きがあります。その違いは次の様なところにあります。
- 既に構築されているか、いないか
- 内容が具体的であるか、ないか
- 運用に適しているか、いないか
- 運用されているか、いないか
- システム化されているかどうか
- 教育、人事考課、人事制度と連動したもので構築されているかどうか
2009年4月の介護報酬の改定、同年10月の「介護職員処遇改善交付金」制度のスタート、そして2010年3月に、この交付金制度の追加要件として盛り込まれた「キャリアパスの要件」はまさに、「どの段階で、どのような知識、技術、能力を必要とするかの体系的基準」づくりを求めたものでした。もちろん、処遇改善によって介護人材の確保が必要であると同時に、キャリアパスの導入が介護職員について、ポストや仕事の内容を設定し、それに必要な能力、資格、経験等を明示することで、
- 介護職員の業務、職務において、次のステップへ導く体系的なスキルアップの道筋づくり
- これに必要な職員の業務教育の明確化
- 適切な人事評価と結び付いた人事制度の構築
を図り、これまで問題としてあった、「人事評価の妥当性の低さ」や「キャリアアップが望めない職場」の改善を目指したものです。
既に多くの介護事業者がキャリアパスの要件を備え、運用段階にありますが、最大のポイントは「どの段階で、どのような知識、技術、能力を必要とするか」が具体的であるかどうかにかかっています。これが抽象的であるとすべての仕組みが形骸化してしまいます。まず、評価の妥当性がなくなり、処遇の公平性・納得性が失われ、ひいてはモチベーションの低下や業務の質の低下をきたします。当然、抽象的な知識・技術・能力表現には効果的、具体的な教育課題を当てはめることが出来ません。これは最大の教育問題です。
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教育の必要性は十分感じているが、業務の多忙さや人員不足のため、教育をする職員、教育を受ける職員に時間的余裕がない。
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人数的にも、能力的にも十分な教える側の人がいない。
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作業マニュアル、ビデオなどの教育ツールが整備されていない。
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実技指導、ロールプレイングなどの指導技法が十分に使われていない。
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チューター制度、シスター制度、OJT、SDSなどの指導体制の導入が遅れている。
上記9~13は、前述した1~8の問題に対処するために整えていかなければならないものとして考えていきたいと思います。以上の考察を踏まえて1~13の問題を評価しますと、他業種を含めた教育問題全般的なことに取り組むことより、介護事業者にとっての特徴的な問題を取り扱うことの方が、より良い方向にもっていくための具体的対策を考えていくには効果的であり優先度が高いと言えます。
15.教育問題の選択
ひとつの問題が解決されることによって、関連する問題にも良い効果や方策が導かれる可能性のある問題は、
- どの段階で、どのような知識、技術、能力を必要とするかの体系的な拠りどころがない。
- 教育の結果が客観的に評価され、人事考課や処遇等の人事制度に結びつくものになっていない
の問題であろうかと思われます。特に「7.どの段階で、どのような知識、技術、能力を必要とするかの体系的な拠りどころがない」については教育問題の根源的な問題だと言えます。次章からその対処法を述べていきます。
16.教育問題への対処
力量の明確化
効果的で効率的な教育は、“必要な人に必要な部分の教育をする”ことですので、まずは、各職種、各階層が業務の結果に対して求められる力量を明確にすることです。どの段階で、どのような知識、技術、能力を必要とするかを体系的に明確にすることです。表1はその一例です。これは人事考課の評価表ですが、評価のために書かれている"視点"こそがその階層の各職務や能力として求められていることですので、裏返せばそのものが必要な教育内容ということになります。ここでポイントとなるのが、評価に使う場合も、教育に使う場合もこの"視点"の表現だけでは具体的に何を教育したらよいのか、どうであれば正しく公平な評価になるのかが分かりません。つまり、「何が、どのように出来ている」かが判定できないからです。一般に多く見られる評価表の表現に『~は適切にできていたか』『~に努めたか』『~は十分であるか』等がありますが、これだけでは不十分です。適切さや十分さ、努めたか否かに戻れるデータがなくてはなりません。教育制度や人事制度と連動したしくみづくりをするにはこの大元をしっかり作らなくてはいけません。
「職務チェック表」等に基づく評価
例えば、ある職種に求められる業務の力量表現として、『排せつ介助が独力で適切にできる』というものを介護職経験2ないし3年相当の職員の力量として求めているものがあったとします。評価者が5段階評価で「5:十分にできる、4:できる、3:まあまあできる、2:不十分、1:できていない」を判断する際に悩むのが“適切に”の部分です。適切さを判断するもう一つ下位の基準が必要です。一例ですが、評価表の解説として、適切とは苦情や事故がないこと、やり直しや遅れに関する先輩・上司の指示を受けていないこと、などの判断基準が示されているものがあります。また、教育の必要性に結び付けて『…が…のようにできている』といった「職務チェック表」があり、「職務チェック表」の結果の点数を適切さの判断基準と連動させることも考えられます。(表2は「職務チェック表」の例です。)これは非常に大切なことで、8の問題「教育の結果が客観的に評価され、人事考課や処遇等の人事制度に結びつくものになっていない」ことにもつながってきます。この事例のように結果がある程度目に見える業務はともかく、相談対応業務や階層に求められる管理能力、また、知識、技術とは異なる判断力、企画力、問題解決能力等はさらに判断基準を具体的に設ける難しさがあります。しかし難しいことを理由に抽象的表現の基準を設けるだけで運用すれば、それは目盛の書いてないモノサシで測って結果を書いているに等しいといっても過言ではありません。目盛の精度には限界がありますが、目盛を付ける努力をして評価の妥当性、納得性を高めなければなりません。本稿のテーマである教育・人事制度の具体策が生まれてこないことになります。
「評価表」及び「職務チェック表」作成のポイント
- 「適切」「十分」などの表現にとどめない
- 何が、どのように できているのかをチェックしたデータに基づかせる
- 評価のモノサシには具体的な目盛が必要
職種と階層
「評価表」の例では、職種は施設介護職、施設看護職、栄養士ほか十数職種ごとに作成し、階層は分かりやすく3階層に区分してあります。課や係またはグループといった組織単位の管理責任者の階層、その組織に所属する職員の実務の指導・監督者の階層、実務担当者の階層の3区分です。多くの組織では人事制度、給与制度上、等級制をとっており6から8等級程度に細分化されており、これに部長、課長、主任といった職位が複数の等級に亘って該当させる形がとられています。教育ニーズと連動する括りは等級というよりむしろ職位や職務的な違いのある単位で階層を区分するのが適当です。
評価項目
能力の評価項目は基本能力と職務能力に大別し、それぞれに10項目、計20項目を設けた例としています。基本能力は判断力、調整力、企画力等職種に関わらず求められる能力が中心で、階層的に強く求められるものとそうでないものとがあり、ウエイト評価の対象とします。また、職務能力は各職種ごとに異なるそれぞれ代表的タスクから10の職務能力を挙げています。例えば、施設介護職であれば、3大または4大介助と言われる「食事介助」「排せつ介助」「入浴介助」「移動・移乗介助」のほか、「利用者・家族との信頼関係構築」など、また、看護職であれば「看護処置」「緊急時対応」「医師、ケアマネとの連携」などを評価項目にしています。基本能力に対する教育はマネジメント研修や管理者・リーダー研修と呼ばれる主としてOFF-JTとして外部研修参加で賄われる種類のものが多く、一方、職務能力に対する教育は介護技術研修、感染症対応研修、ケアプラン作成研修等の職種・職務に対する職場内研修やOJTで行われるものということになります。認知症ケア実践者研修のような業界団体の行う外部研修もあります。
評価の視点
階層と評価項目をクロスさせ、評価の視点が記されていますがこの表現の段階では抽象的な表現となっているため評価者は必ず、根拠となる情報をもとに評価点を付けることが必要です。その評価の根拠となる情報の一つとして「職務チェック表」を使います。また、苦情や事故がないこと、やり直しや遅れに関する先輩・上司の指示を受けていないこと、などの日常の記録も評価の根拠となる情報として使います。このような評価の元となる具体的情報があることで、評価に対する公平性と納得性が得られ、不足部分を今後の教育課題に結び付けることができます。
「職務チェック表」の使い方
- 人事考課の元データとする
- OJT時等のチェックシートとして使う
- 作業(業務)マニュアルとして使う
「職務チェック表」は「評価表」の評点をつける際に使用します。例えば、例示の職務「排せつ介助」では7つの中分類に小分類の70のチェック項目が記載されています。一つ一つに求められている状況が出来ているかどうかがチェックされ、各中分類としての達成度がチェック数によって3段階評価され、中分類7つの評価点合計が「評価表」による評価に使われます。その結果、「評価表」の達成基準(視点)に書かれている『排せつ介助がマニュアルに従って適切に出来る』という“適切さ”に対して
- 達成基準を超えた能力を有している
- 達成基準に十分相当している
- 達成基準に相当している
- 達成基準に能力が不足している
- 達成基準に能力がまったく不足している
のいずれかを自己評価や、上司評価の際にデータ的な根拠をもって用いることが出来ることになります。
また、OJT等の教育指導の際にチェック表として使うことが出来ます。さらに、そのまま作業(業務)マニュアルとしても使用できます。必要な部分には図や写真が引用できるように仕組むこともできます。
このような「評価表」と「職務チェック表」を結び付けた使い方は、教育問題として挙げた1~13までの殆どの問題に対する対処策となります。
17.キャリアパスとキャリアラダー
ここ十数年の介護需要の増大に対応するため、労働力の確保の必要性から介護事業者の人的構成は必ずしもキャリアパスに沿ったポストや処遇に応えられる形にはなっていません。また、介護事業を支える人材の特徴として、あまり上昇志向をもたず、福祉のプロとして役立つことに働き甲斐を感じる職員が多いということが言えます。
そこで、キャリアパス制度を導入する場合には次の問題を意識した制度を考えておく必要があります。一つは人的構成が底広のピラミッド型をしていること。二つ目には既に指導・監督職や管理職に登用されている職員に対する「役職に求められる資質・能力」の充足のために、キャリアパス制度の再適用をしなければならないことです。特に、あまり上昇志向をもたず、福祉のプロとして役立つことに働き甲斐を感じている底広のピラミッド型を構成している職員に対してはキャリアパス制度と併行してキャリアラダーや目標管理の考え方と手法によってモチベーションの維持とアップ、スキル向上をはかることが求められます。この方法によって職員個々のめざすものと組織の目指すものとを一体化させ、最終のねらいである利用者・家族へのアウトプットの向上と改善に結び付けることが出来ます。キャリアラダーは仕事をスキルレベルに応じた複数の職階に分け、専門性を高め、よりよい仕事にキャリアアップさせるもので、はしごのように階段式に登り型の教育をするという意味です。これに対し、キャリアパスは長期的な職務の道や展望のことであり、職位、職責又は職務内容等に応じた任用等の要件を定め、これに沿った教育をするしくみです。
利用者のニーズに応じた良質なサービスを提供するために、介護職員が介護技術やコミュニケーション能力の向上に努め、研修機会の提供や技術指導等を実施(OJT、OFF-JT等)し、介護職員の能力評価を行う仕組みを構築するキャリアラダーが介護現場には必要です。
前述の「職務チェック表」による到達段階を細分化し、通常の人事制度の等級とは別のはしごにつけた名称によって評価するのも一つの方法です。ユニフォームの胸に色で識別した小さな布製プレートを貼っている例もあります。職員数100名程度の老人福祉施設の介護職員の約80%が人事制度上の最下級の職員と非常勤職員で構成されているケースは珍しくないのでこうしたキャリアラダーの考え方が必要です。
18.目標管理制度のシステム化
目標管理制度というと常に「自主的」「モチベーション」「組織の活性化」というワードとともに語られ、組織と個人とが相反する立場にあり、それを個人側に立った制度とすることで目標管理制度の本来目的である組織目標に向かう効果を期待したものになっています。そこには常に個人が組織目標に向かえない要因である、「上から与えられたもので、自らが目指したり決めたものではない」とか「組織の目標が見えない」など、言い方を変えると、組織の目標に個人が沿ってこないから個人が自主的に目標に向かう制度を作って、組織目標に向かわせるのだという狙いが見えます。本来、組織が期待する職員の成長や組織の活性化を通じた組織の目標達成が目的で、その方法の一つが個人の目標管理というのであれば、いずれは管理手法であって、そこにあたかも個人尊重的な「自主性」「自己統制」「やる気、達成感、任される喜び、などのモチベーションの重要性」などを強調するのではなく、管理の仕組みとしてどのような方法が効果的でシステマティックであるかを導き出すことの方が大切です。介護事業においてはケアプランや施設介護計画など、利用者のニーズ把握に基づく課題設定、実施計画、実施状況のモニタリング、再評価とそれに基づくプラン見直しと再作成というプロセスが介護サービス提供の基本となっています。介護予防的にも栄養、運動機能維持・向上等にも同じプロセスが適用されています。組織目標につながる個人の取り組み課題や成長目標の管理にもこのプロセスを適用することは新たな仕組み意識をもたずに、業務に適用されているプロセスの置き換えにすぎないのでスムーズに取り組めます。組織の理念や目標、更に部門の目標に対し、自己の貢献目標や成長目標を設定するプロセスはアセスメントにおけるカテゴリー別の分析手法と同一です。
ケアプランのアセスメントにICF(国際機能分類)が使われ、利用者のADL側面以外の社会参加面のニーズ等に目を向けているように、目標管理制度の目標も個人の育成・教育的な観点以外の自己のライフステージに即した目標など、個人が最終的には組織に貢献し、これを通じて社会(特に福祉)に貢献する機能面からも目標を抽出していけるようにすることが大切です。
家族や各分野の専門家を交えて利用者面接を通じて把握していく方法は、上司との面接やOJTなどによるチェックから自己を評価し分析する部分に当たります。ケアプランでいうケアカンファランスに相当するものとして上司面談の場がそれに当たります。短期目標や長期目標といった期間を定め、その間の実施手段を明確にするのも、同様です。目標達成に必要な資源として必要なものも介護サービス計画では看護師、栄養士、機能訓練指導員など関わる職種や使用する福祉用具などを挙げますが、それと同様に個人目標達成の支援としてリーダーの支援があったり、受講する教育機関や学ぶための書籍などを挙げることでは同じです。目標管理制度においても中間時点での評価を面接でおこなったりして、必要であれば目標自体の修正や達成手段の見直しを行いますが、ケアプランでもモニタリングの結果次第ではプランの修正が行われる点で同じです。このように目標管理制度の運用する仕組み自体はケアプランのプロセスが適用できますので、ケアプランのプロセスがコンピュータシステムで構築・運営されていれば目標管理制度もコンピュータシステム上の管理が可能になります。目標管理制度の「自主性」「自己統制」「やる気、達成感、任される喜び、などのモチベーションの重要性」の部分はシステム化は難しくても、ケアプランのプロセスと同様だと考えれば運用はコンピュータシステムで対応できます。
プロセス | 目標管理 | ケアプラン(介護サービス計画) |
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目標設定 | 組織と個人の目標を重ねあわせて自主的に設定 | アセスメントと面接による利用者ニーズに基づく課題設定 |
レビュー | 上司面接 | 多職種、専門家によるカンファランス |
取り組み | 自己管理と側面支援 | プランに基づく実施 |
中間チェック | 中間面接と進捗確認 | モニタリングと随時見直し |
達成度評価 | 自己評価と上司からのフィードバック | 短期目標、長期目標の達成状況をカンファランスにより評価 |
書式 | 目標管理シート | 介護サービス計画書 |