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19.標準化と画一化の違い

介護サービスの標準化と個別性

介護の事業活動において、利用者のニーズを満たし、事故や苦情の少ない、効率的な業務が行われるために、なぜ、業務の標準化が必要なのかを改めて考えてみたいと思います。

標準化と画一化の違い

業務の標準化ということばは、画一的な業務をすることと誤ってとらえられることがあります。

標準化というのは、業務の結果であるアウトプットを利用者個々のニーズに沿ったものにするにはどういった標準があったら良いかということであり、画一化は結果そのものが一つのかたちにならなければならないことを意味しています。

もちろん、標準化した仕事をすることで、画一化されたアウトプットをする必要がある場合もありますが、最終製品なりサービスが個別的である必要がある場合にこそ、標準化された仕事の仕方が必要だと言えます。

モノづくりの世界では、画一化された製品製造のために標準化された仕事の仕方が求められる場合が多いかも知れません。特に、かたちのないサービスが最終製品である場合は、個々に異なるサービスに対応するためにこそ業務の標準化が必要になってきます。

誤解されやすいのは“標準化は仕事を金太郎飴のようにどこから切っても同じに見える仕事を意味し、介護サービスのように百人百様のサービスをその場その場の状況に応じて提供していかなければならない業務に標準化は適しない”と考えてしまうことです。

むしろ、逆に、どんな時にどのような人がやっても百人百様のサービスが提供できる標準化された業務の仕方がなければならないと考えなくてはなりません。

標準化と画一化

20.介護サービスと標準化の効用

介護サービスに限らず、業務の標準化は、様々な面の効用があります。

  1. 職員の退職、異動にスムーズに対応できる
  2. 事故や苦情の減少につながる
  3. 教育の効率化、ノウハウの共有が図れる
  4. 職員の固有のスキルや能力に依存することなく、常に一定レベルの仕事を可能にする
  5. 個人の仕事ではない、組織の仕事に変える
  6. アウトソースする場合の内容の明確化と管理を容易にする
  7. 個別性への対応を可能にする
  8. 無駄を省略して、業務を効率化、能率化させる
  9. 継続的な改善ができる
  10. 業務をコンピュータにより支援するシステムが適用できる
  11. 新たな発想、創造のもとになる

これ以外のもいくつかの効用を挙げることが出来ますが、ここでは特に介護サービスに結び付けて具体的な事例を取り上げてみたいと思います。

  1. 職員の退職、異動にスムーズに対応できる
  2. 事故や苦情の減少につながる
  3. 教育の効率化、ノウハウの共有が図れる

近年、多少の改善は見られますが、相変わらず介護現場の人材不足は続いており、離職率の高い状況にあります。これに伴って中途採用や一時的な人員補充も多くみられることから教育が追いつかない、結果として介護事故や苦情の発生にもつながるといった問題があります。

教育する時間さえない、教育する能力のある職員も不足している状況にあって、業務の標準化がかたちとして作られていれば教育ツールと情報の共有化に役立つはずです。

なかでも、特別養護老人ホームや通所介護サービスのように職員数も比較的多く、業務内容も長い年月の間に形作られている業務は一定の標準化が図られていますが、サービスとしては比較的実施期間が短く、多様な業務を含んでいる地域包括や地域密着型介護事業では業務の標準化はこれからという面があります。職員数も少なく専門性も高いため、一人でも退職者が出ると、一からスタートという状態になります。

これは業務の継続性の観点からは前任者との違いに対する苦情や不安、更には情報の共有不足による事故発生にも結び付いています。

1~3には挙がっていませんが、特別養護老人ホームの入所や短期入所サービスは24時間のサービス提供のため、交代制勤務であることがより一層、業務の標準化が図られていないと事故や苦情の原因ともなっています。

  1. 職員の固有のスキルや能力に依存することなく、常に一定レベルの仕事を可能にする
  2. 個人の仕事ではない、組織の仕事に変える

介護サービスの特徴として、非常に専門性の高い仕事である反面、日常生活的な内容が対象であるため、業務の標準化やマニュアルに基づかない仕事でも一定の結果が出せるということが挙げられます。例えば、椅子に腰かけている状態の人を立ち上がってもらう介助動作一つにしても、椅子の前に立って腕の下に手を入れて抱きかかえるようにして立ち上がらせることは出来ます。しかし、これだけでは被介助者の体重をそのまま受け止め、介助者自身が中腰から立ち上がるのに必要な力を出さなければならず、介助者自身も腰を痛めかねません。また、被介助者にも介助者の腕の力が強くかかるため、内出血や皮膚を摩擦して傷めてしまいます。これは業務の標準化の一つである作業マニュアルの中で「椅子からの立ち上がり介助法」として正しい方法が職員に教育ツールとして常日頃から使われ、実際に職員の共有化された仕事として行われていなければならないことです。利き足を少し後ろに引き、頭を前にやや前傾姿勢になってもらい、お尻を浮かす状態で両手を下向きに引く、あるいは被介助者に両腕を介助者の首に回してもらい、介助者が片膝をついた姿勢で介助者の腰に手を回して一緒に立ち上がるなどの方法が図入りで説明された教育マニュアルが用意され、使われている(教育もしくは自習ツールとして)状態にあるかどうかです。ある職員は技術が優れているからできるという状態があったとしても、それが組織としての仕事になっていなければ常に一定のレベルのサービス提供を可能にすることは出来ません。

作業マニュアルではない種類のものでは更にその傾向が強くなります。例えば相談対応業務のような非定型的な場合、聞き取り項目や記録方法などの標準化が図られていないと、担当者の一時不在や退職時に業務の継続性が保てなくなり、誤ったサービス提供をしたり、苦情発生にもなりかねません。業務の効率の面でも大きなマイナスになります。

担当者個人の性格のような「代替可能性」がないもの以外の業務は、できる限り「標準化」しなければなりません。

  1. アウトソースする場合の内容の明確化と管理を容易にする

介護サービスの中で利用者へのサービスの質に影響する業務をアウトソースしているものには次のようなものがあります。

  • 居室やトイレ等の清掃
  • 送迎車の運転
  • 理美容
  • ベッドメーキング
  • 洗濯
  • 調理 等…

このうち理美容を除くと、これまでは組織の職員が行っていたものがアウトソースされてきているものです。

特に、これまで組織が行ってきた業務をアウトソースする場合、質を維持するうえでアウトソース先に対して求める業務内容を明確にする必要があります。既に当該業務に標準化されたものがあればそれに基づいた業務を委託すればよいのですが、もし、標準化されていない場合には新たに作成して、それに基づいた業務をしてもらう必要があります。

アウトソース先の業務の過程や結果を監視・評価する場合も標準化された委託内容に対して十分であるのかないのかを見ていかなければなりません。これは後述する業務の改善や見直しにつながる大事な要素です。土台のないところから改善や見直しは出来ませんし、アウトソースしたということで管理の基準がなくなってしまうのでは結果をすべて利用者が負うことになってしまいます。

  1. 個別性への対応を可能にする

本稿のテーマでもある、標準化は個別性への対応になぜ必要なのかということです。例を挙げて説明したいと思います。

例1:外出支援

養護老人ホームの利用者の外出支援で、業務の標準化がなされていないケースにおいて、次の様な問題が発生しました。養護老人ホームの利用者は基本的には身の周りのことが自身でできるのが原則ですが、高齢化に伴い、「特定施設入居者生活介護」による、施設内で介護サービスを受ける利用者も含まれるため、介護や支援の必要な状況が様々です。このような状況下で外出支援についての業務の標準化がないために、ヘルパーによる入浴介助の時間に利用者が不在という事態が発生しました。その後、“外出支援を行う職員は、他の予定がないかどうかを確認し、外出理由と行き先、外出時間を記録に残す”という業務のルール化が図られ、徹底がされたということです。その他、利用者だけで外出する場合にも同様に行き先や外出予定時間を把握するような業務標準を定め、個々に異なる支援方法もとでも利用者の安全や業務上の無駄などの問題が起こらない標準的な業務が行われるように改善された例です。

例2:入浴サービス業務

入浴サービスを一つのプロセスとしますと、プロセスはインプットをアウトプットに変換するための一連の活動と考えれば、入浴サービスのプロセスは前工程のプロセスのアウトプットをインプットとして受け取り、入浴サービスの結果であるアウトプットを次工程のインプットにする活動ということになります。したがって入浴プロセスを時系列で示せば

  1. 浴室の準備と点検(浴室安全、備品、湯音等)
  2. 入浴対象者の選出(入浴日、入浴形態)
  3. 着替えの準備
  4. 入浴対象者の健康状態の確認と排泄の促し
  5. 入浴対象者の誘導(声かけ、移動介助)
  6. 脱衣と皮膚等の異常有無の確認
  7. 入浴介助(洗体、洗髪、入浴)
  8. ふき取り、皮膚や体調の異常の有無確認
  9. 薬の塗布(必要な場合)
  10. 着衣
  11. 小休止と水分補給(必要な場合)
  12. 移動介助

となりますが、細分化されたプロセスごとに管理の基準と作業の手順が明確になっていて、実施され、必要に応じて取られた記録や情報が次工程に渡される仕組みが出来ている状態が業務の標準化図られていると言えます。

もし、1~12どのプロセスにせよ標準化された管理基準や作業標準がなければ、リスク、クレーム、利用者ニーズ、仕事の効率面に何らかの問題が起こる可能性があります。

例3:介護サービス計画(ケアプラン)

介護サービスの中で、最も個別性に対応するために作成されているものがケアプランと総称されている種々の介護サービス計画と言えます。では、なぜ介護サービスが業務の標準化と言えるのかと申しますと、個別性に対応するために職員が各々の経験や技能、知識をもとに介護サービスを行うのではなく、一定の手順を踏んで作成された計画に基づいて誰がやっても同じ課題や状況に対応したサービスを実施する状態を作り出すことが出来るからです。まさに業務の標準化です。例えば、余暇活動に関心があるのに参加しない利用者に対して、ケアマネージャー、利用者、家族、看護師、介護職員、機能訓練指導員による聞き取りやケアマネジメント会議によって、課題が設定され、課題に向けた実施手段が導かれ介護サービス計画に盛り込まれたとします。内容は以下の通りです。

課題
『手芸が好きでやりたいが目が見にくいために思うようでなく気が進まない状態から積極的に参加できるようにしていきたい』
実施手段と目標
『メガネを直したうえで、参加を促し、他の利用者とともに手芸を楽しめる状況をつくる』

介護サービス計画では、だれが、何を、いつまでにするかも明確にしたものになっていますので、モニタリングによって計画を評価し見直すことも標準化されたやり方として確立しています。

もし、これを一人の介護職員の判断で、その介護職員の誘い方によって一時的に手芸活動に参加できた日があったとしても、それは“目が見にくいために思うように皆と同じように楽しめない”という問題解決にはなっていないので、一時的には参加できても手芸内容や長時間に渡った場合などに再び参加意欲を失い、別の問題(例えば目を使いすぎて傷めるなど)を起こす可能性もあります。必ずしも介護サービス計画で計画した内容が功を奏するとは限りませんが、そこにはモニタリング、再評価、見直し計画の作成と言ったステップが組み込まれていており、一人の介護者の自己判断で行うケースとは違うプロセスになっています。このやり方こそが個人の仕事ではなく組織としての仕事に出来る方法でもあります。介護保険制度の中では、栄養管理、運動機能、介護予防等においてもアセスメント→課題抽出→実施計画→実施→モニタリング→評価→再アセスメント→計画更新(変更)という業務の標準化に沿った取り組みが求められています。利用者の状態は一人一人異なり、介護者の考え方、技量、知識も一人一人差があります。この組み合わせを考えると提供されるサービスの状態は無限大になります。業務の標準化がこの無限大を有限にし、継続的改善を可能にしていけるのです。

  1. 無駄を省略して、業務を効率化、能率化させる

業務が標準化されていることで無駄が省け、効率的、能率的な仕事ができる例は枚挙にいとまがない。ただ、介護サービスにおいて無駄の排除や効率化、能率化を求めることがサービスの質の向上に果たしてつながるのであろうかという疑問を抱くところではある。では逆に無駄の多い、非効率的な業務をしていて介護サービスの質が向上するかと言えば、当然ノーである。排せつ介助にあたり事前に居室に持ち込む物品の用意に標準化された手順がなく、不足品をとりに戻る、その間利用者を排せつ介助途中の状態で待たせる。こんな事態は、利用者一人に要する介助時間が増え、時間内にすべき人数の排せつ介助が出来なくなるばかりか、利用者につらい思いをさせ、汚れた手でカーテンやドアを触り、不衛生極まりない状態を作ることになります。業務の標準化を図る際にはリスク、サービスの質、効率の要素を考えた管理基準なり作業手順を作るのであって、効率化がサービスの質を損なったり、リスクを増大することにはならないのです。

  1. 継続的な改善ができる

業務の改善は、現在行われている業務が土台になります。現在行われている業務が一定されていなければ何に対して改善を図るのかが定まりません。土台のないところから改善は生まれないからです。PDCAのPにあたるものが標準化された業務ということです。

業務レベルが明確になっている現在の標準化されたものがあってはじめて、仕事をより高度に発展させ、より質の向上を目指すことが出来ます。

昨日までの満足は今日は当たり前になり、今日の当たり前は明日には不満足になります。標準は決して固定的なものではなく見直されていくものに位置付けなければなりません。

  1. 業務をコンピュータにより支援するシステムが適用できる

介護サービスの要でもあるアセスメント→課題抽出→実施計画→実施→モニタリング→評価→再アセスメント→計画更新(変更)のプロセスを、項目設定や記録項目、評価基準を標準化することでコンピュータによる支援を使ったシステム作りが可能になります。

アセスメントの領域別の細部の項目が入力されていることによって課題抽出の選択肢をコンピュータがアウトプットし、それをもとにケアマネジメント会議等を経て課題抽出を図る。次に、課題に対する実施状況が課題項目に与えられた符号のもとに記録されたケース記録や他のサービス実施記録がコンピュータによって集積整理され、集積整理された実施状況をもとにケアマネジメント会議等で評価し、更に必要なアセスメントを加えれば新たな計画が更新作成されると言ったコンピュータ活用が可能になっています。介護記録ソフトと呼ばれるものにはそういった機能があり、その他にも介護事故等のリスク管理や行事や訪問予定など施設スケジュールの管理から、勤務割の作成までをコンピュータシステム内で一括管理が可能になります。そのためには業務の標準化が前提になりますが、逆にコンピュータシステムを使うことが必然的に業務の標準化を促すことにもなります。

  1. 新たな発想、創造のもとになる

これは9の業務の標準化は継続的改善につながるというサイクルの問題ではなく、業務を標準化する過程で自ずと湧いてくる問題発見とそこから生まれる新たな発想に効用があるという一面です。標準化を図る過程では様々な壁にぶつかります。標準というものをどこに置くか、考え方だけではない実施レベルの標準には新しいやり方が必要となる、あるいは標準化が全く予想をしなかった分野に関連することとなり新たな発想が生まれるケースがあるということです。これこそが本来の業務の標準化の狙いかもしれません。

21.標準化の方法

標準化したものをかたちにする

標準化したものは、複数の人が使うものであり、維持管理されなければならいことからドキュメント化するなど、かたちとして存在しなければなりません。一般には文書のかたちをとりますが、写真でも映像でも構いません。文書も文章、フローチャート、表、記録様式、これらの組み合わせなど様々です。記録様式は実施した結果を残すためのものではありますが、何を、どうした結果を残すのかということが記録様式の記入要領として書かれていればそれが標準化された業務の内容ということになります。記録様式はサービスの現場に備えられ、実施の都度、記録することも多いので標準化されたものをかたちにしたものには適しています。標準化が運用レベルで組織に浸透するためには介護サービスに限りませんが、サービス現場で使える形態になっていることが大切です。さらに、教育ツールとして使いやすいかたちが望まれます。介助技術マニュアルが各フロアに備えられたパソコンを使って閲覧でき、特定の場面は実際の介助場面を映した動画に展開されるようなものを使用している施設もあります。

標準化したものの維持管理

標準化されたものは固定的ではなく、常に見直しが行われなければならないのは前述のとおりですが、現時点の標準化されたものは唯一無二でなければなりません。これが崩れますと標準化の意味がなくなり、見直しの土台も揺らぐことになります。いつの時点で誰の手によって改められたのか不明な業務標準が組織内に複数存在していたのでは拠りどころを失います。標準化された時点と標準化を決定した者を明らかにしておく必要があります。

最も日時の新しいものが最新版としてそれ以前のものと識別されていないとこういった問題が起こります。簡単なことのようですが起こりがちなことですので注意が必要です。極端に言えば、A4一枚の紙に数行の箇条書きされた業務標準であっても、その仕事のやり方はいつから誰の指示によってどのように変わったのかが以後の業務の内容や結果に大きく影響し、場合によっては責任問題ともなる可能性があるのです。 必ず標準化されたかたちのできたもの(文書等)には、作成年月日、作成者が明記されていなければなりません。 また、改定された場合には誤って旧来のものが使用されないような処置をとることも必要です。また、元の業務標準を作成した者もしくは同等の責任のある者の承認を得て改定がなされる必要があります。 これは業務を標準化する場合の業務標準ということになります。

こんな例がよくあります。介護施設における居室と食堂の温度管理を以下のように定めてありました。

食堂・居室内の温度
  1. 温度目安 夏季 26℃ 冬季 23℃ ±2~3℃以内とする
  2. 食堂に関しては、毎午前中に温度を測り、「温度計測月報」に記入する。
    ただし、居室内の換気・室温は毎日居室に出入りするたびに、上記の室温を目安に、温度調節や換気を行う

この業務標準は記録様式である「温度計測月報」の欄外にも記載要領として温度目安が記載されており、特に夏季は目安温度26℃ +3℃ を超えた場合は処置を必要とすることも記載されていたのですが、いつの時点からか「温度計測月報」の欄外記載の夏季の目安温度が27℃に変わっていました。上記枠内の業務標準は『業務要領書』という業務標準が書かれているもので、通常サービス現場では「温度計測月報」の記載要領に沿って業務が行われる状況にあります。このケースでは業務標準と同様の機能を果たす記録様式内記載の業務標準が先に述べました 下線部 のルールを逸脱したかたちで変更されたことが原因であったようです。業務の標準化はかたちを作る以上に運用段階で維持されることの難しさがあります。時間の経過とともに業務を取り巻く環境や条件が変わります。また、作成した当時の人間が全くいなくなる状態もあります。作成時の目的すらはっきりしなくなり、それにしたがって業務を行っている者が“これは何のために、こうしなくてはならないのかわからないまま標準化された業務に従っている”ことすらあります。これでは業務を標準化することが弊害になってしまいます。標準化された業務を、定期的に見直しすることが必要です。

22.標準化とマニュアル

管理規準と作業マニュアル

業務の標準化のために所謂マニュアル作りをしようとしたとき、必ず悩むのがどの程度のことまでを標準として記載すべきかということです。

一般には、誰がやっても同じレベルのことが同じように出来る部分はあえてマニュアル化する必要はありません。組織の規模、職員の能力、業務の内容によってその対象は異なってきます。極端な例ですが、調理マニュアルにシンクに水を注ぐ場合の水道蛇口のひねり方までマニュアル化する必要はないでしょう。しかし、洗うものによって水を先に入れておくべきか、洗うものを先に入れてから蛇口をひねるべきかが洗い方に大きな違いがある場合はそのことの標準を示しておかなければ、初心者であっても同質レベルの仕事ができるためのマニュアルとして役に立たないということはあるかと思います。まずはこうした標準化すべき、記載すべきレベルを決めることが大切です。また、記載レベルは事故や苦情の発生状況とその内容、その他非効率さや仕事の質のバラツキをもとに見直すことも必要です。

次に、責任や担当、監視や判断の対象とその基準、記録や報告の必要の有無とその方法、取るべき処置など、業務を管理するうえで求められる内容と、How to的な何をどのようにするかと言った内容は混在させて良いかどうかも悩むところです。

前者は管理規準であり、後者は作業マニュアルと呼ぶと分かりやすい類のものです。両者を厳密に区分して業務標準を作ることは難しいのですが、極力その違いをつかみやすくする工夫が必要です。管理規準を読んだだけでもどのような業務プロセスであるかが掴め、詳細のHow toは何の作業マニュアルに参照されるかが分かるように記載をする。一方、作業マニュアルにも管理規準が一部重複して記載があり、組織の業務の中の他のプロセスとの関連や責任・権限が分かるように記載されているのが望ましい姿です。筆者もいくつかの介護施設の業務標準作成に携わりましたが難しさがあります。例えば、介護施設の利用者の居室を夜間巡回する業務の場合、誰が、どこの階のどの部屋を、何時間おきに、どういった点を どのように確認し、 異常を発見した場合の処置法と、その結果を何に記録するといったことを明確にすれば、夜間巡回業務の8割程度は標準化された仕事として明確にされたことになり、その殆どは作業マニュアルというよりは管理規準に近いものになります。この中で唯一、How to的なものと言えば、 下線部 の「どのように」部分です。これは【チェック上の注意事項】とでもして、一人一人の利用者の枕元まで行って顔を覗き込むように見て回るのか、部屋に数歩踏み入れて辺りを見回すような見方をするのか、懐中電灯を照らして見るのかと言った部分を書き添えれば誰がやっても同じレベルの仕事をすることに繋がる標準化になります。反対に、How to的なものが大半を占める作業マニュアルには、作業の内容を主体に書き、その中に管理規準としての責任や担当、監視や判断の対象とその基準、記録や報告の必要の有無とその方法、取るべき処置など、業務を管理するうえで求められる内容を記載する場合はその部分の字体を ゴシック太文字 にしておくなども一つの工夫です。

文書の階層化を図る

業務の標準化で作成する文書は使い易さも重要なポイントです。標準化は運用されて初めて標準化した意味があるのであって、ロッカーにしまわれていて何かあった時にだけ、その決まり事を確認しに行くようでは全く意味がありません。特に現場で使用する作業マニュアル等の業務標準は使える状態におくことが必要です。その方法の一つが文書の階層化です。みたいところが詳しく見ることが出来、かつ業務全体の中での関連が分かることが必要です。そのためには分厚い作業マニュアルではなく、階層化された分冊で使用できる形をとることをお奨めします。また、現場で使用する作業マニュアルをパソコン画面で使用できる環境であれば、ハイパーリンク等によって階層的に展開するように仕組むことは容易です。例えば、介護サービスの排せつ介助時に事前にワゴンに準備品を載せ運ぶ場合の手順書に、準備品という文字をクリックすると準備品の一覧とともに、ワゴンに準備品が正しく積まれた写真が画面上に現れるようなものを作り込んでいる施設もあります。このような様々な工夫で業務の標準化が運用レベルで機能するようにしたいものです。